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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.19 (判決公判)その1

2018/12/04

これまでこのコラムで取り上げてきた標題の税法違反被告事件の判決言い渡しが行われ、判決は、被告会社を罰金2,500万円、被告人Aを懲役2年に、被告人Bを懲役16月に処し、裁判が確定した日から3年間それぞれその刑を猶予するとの内容でした。しかし、これまで18回にも上る本件事件の公判を傍聴していて疑問に思うこと、ないしは筆者自らの考え方とは違う点がいくつか存在するので、それらについて、とりわけ本件判決が根拠としている事実認定に誤認があるのではないかと思われる点等を取り上げ、筆者の考え方についても述べてみたいと思います。

 

本件判決は、消費税について、「被告会社の関係法人には事業実体(法的な実体)がなく、被告会社において計上された外注費の実質は被告会社における人件費であるところ、関係法人を設立し、被告会社の従業員を関係法人に形式的に所属させ、関係法人に外注に出した形式を作出し、給与を外注費に仮装し虚偽の消費税の確定申告書を提出していた」と認定し、これらの行為について、客観的に見れば、消費税法6411号の「不正の行為により・・・消費税を免れ」た場合、地方税法72条の9511号の「不正の行為によつて、譲渡割の全部又は一部を免れ」た場合にそれぞれ当たるとしています。また、法人税については、「売上の一部を除外するとともに架空の外注費を計上するなどした上、所得を過少に申告しているのであり、これを客観的に見れば、法人税法1591項の「不正の行為により・・・法人税を免れ」た場合に当たることは明らか」であるとしています。

 

そこで、若干専門的になりますが、逋脱(脱税)犯の構成要件でもある「偽りその他不正の行為」についてですが、これは、いわゆる規範的構成要件要素であることから、その解釈適用が問題となります。この点について、判例は、「偽りその他不正の行為」を「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうこと」と定義しています(最大判昭和42118日刑集2191197頁)。ところで、租税逋脱は、租税回避と同様に、不当に租税負担の軽減又は排除をもたらす行為ですが、「租税回避が課税要件法の欠陥を利用した租税負担の軽減又は排除として課税要件法上適法と判断されるのに対し、逋脱犯は、租税刑法(行政刑法)に反する違法な行為として刑事罰の対象」とされており、両者の相違の一つは、租税回避の不当性が租税正義の要請である租税負担の公平の観念に反する点にあるのに対し、「逋脱犯の不当性は、単なる不公平にとどまらず、実体税法上、偽りその他不正の行為による租税債権の侵害を理由とする詐欺利得罪(刑法2642項)類似の悪質性を有するゆえに、刑事罰の対象とされている」ことです(谷口勢津夫『租税回避論-税法の解釈適用と租税回避の試み-』13頁 清文社、2014年 参照)。

 

租税刑法の解釈は、罪刑法定主義及び租税法律主義の帰結として文理解釈を原則とすべきですが、法が「偽りその他不正の行為」と規定しており、「偽りその他不正の行為」と規定していないことを文理解釈すれば(租税実体法の解釈も文理解釈が原則である)、「不正の行為」とは「偽り」と並列される程度の行為を指すものと解すべきであり、「偽り」や「偽計」に匹敵するとまではいえないような行為まで含める拡大解釈は、租税法律主義、罪刑法定主義の下では許されません。このような解釈は、逋脱犯の罪質が詐欺利得罪に類似すると考えられており、自由刑の刑期も詐欺利得罪と同等であることからも明らかといえます。

 

したがって、本件事件においての「偽りその他不正の行為」の具体的内容は、課税庁や捜査機関によって予め想定された筋書きに沿った目的論的な解釈や評価によって「不正」であるか否かが左右される程度のものではなく、社会通念や取引通念に照らして、逋脱の結果に向けられた「偽り」「偽計」等の欺罔行為と並列されるような実質がなければなりません。いうまでもなく、租税刑法の適用に当たっての事実認定においては、本件事件において問題となる取引の外観から租税回避の目的が窺われることをもって間接事実とすることは許されないと考えられます。(判決公判 つづく)

文責(GK

 

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