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番外編…政府の閣議決定(法の支配<Rule of law>は、今や死語となったのか?)

2020/02/26

今回は、租税不服申立のテーマから離れて、番外編ということで、このところ国会はもとより、マスコミの話題を賑している時事問題を取り上げてみたいと思います。それにしても現政権は、末期状態にあることを表象しているのか、次から次へとスキャンダラスな話題が報じられる状況にあります。最近は、M.M法務大臣の発言をめぐって俄に「法の支配」なる言葉がクローズアップされています。「法の支配」とは、統治される者だけでなく統治する者や統治諸機関もまた、より高次の法の支配に服さなければならないとする考え方です。現政権は閣議決定で東京高等検察庁のK.H検事長の定年延長を決定しました。昭和56年改正の国家公務員法は、「1年を超えない範囲」で定年の延長を認めていますが、検察官の定年については、特別法である検察庁法22条で「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と規定されています。事程左様に、当時の人事院任用局長は「検察官と大学教員には国家公務員法の定年制は適用されないと国会で答弁しています。

 

これにつき、M.M法務大臣は、過日の衆議院予算委員会で法律の規定について「以前には適用されなかったことが適用されるように解釈することはあ」ると述べました。因みに、首相は、衆議院本会議で、K.H検事長の定年延長について「国家公務員法の規定が(検察官にも)適用されると解釈することにした」旨を述べています。これらは、法律の制定時には行政府が認めていなかった法解釈を、時の政権が自らの都合のいいように後に変更し、法律の適用対象ないし適用範囲を変更ないし拡張することを当然視する認識を明らかにしたものです。仮にこれが認められるとすれば、立法府としての国会も、三権分立の考え方、更には法の支配という考え方も成立しなくなってしまいます。

 

これに先立って、人事院のM.E給与局長は衆議院予算委員会で、従来の解釈を「現在まで続けている」旨の答弁をしたばかりでしたが、従来の法解釈の変更を1月中に行っていたと答弁を修正し、「現在」という「言葉の使い方が不正確だった」との釈明をしました。しかし、この釈明は如何にも不自然という他はありません。「はじめにK.H氏の定年延長ありき」で、恣意的に法解釈を変更、拡張したという他はありません。因みに、法務省は、衆議院予算委員会理事会に対して、法解釈変更の決裁を公文書ではなく、口頭で行ったと報告しています。何となく、いいわけに聞こえて仕方がないのは、筆者だけでしょうか。仮に、K.H氏に「余人をもって代えがたい」(調整)能力を認めるのであれば、かような姑息な手段(安易な解釈変更)ではなく、正々堂々と、検察庁法を改正して定年延長を規定すべきものと思われます。

 

K.H氏は、旧民主党政権下で、与野党の議員らへの根回しによる「調整能力」に長けており、官房長として故仙谷由人氏は高く評価していたといわれています。政権が現首相に移っても、官房長を続投し、アベノミクスの中心的政策でもあった外国人観光客受け入れのための入国規制緩和をめぐって、関係各省庁との調整や与野党議員への根回し等を進め、また、組織犯罪処罰法改正案の成立にも奔走したとされています。現官房長官もK.H氏を高く評価し、官房長を異例の5年間努めさせた上、ついには、法務事務次官に抜擢しています。そのK.H氏は、官房長や事務次官として、森友学園をめぐる公文書改ざん事件を不起訴処分にするなど、検察の事件捜査にも影響力を及ぼしたとする指摘が少なからず見られるところです。

 

検察官の定年延長はできないとしてきた従来の法解釈を、現政権の都合で恣意的に変更することは、民主主義の根幹にかかわる「法の支配」を揺るがす由々しき問題ですが、このような強引な手法は、何処か、いつか来た道のような気がしています。現政権は、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障法制の制定に当たり、それまで「集団的自衛権の行使は憲法違反の疑いがある」との見解を示してきた内閣法制局の長官を更迭して、集団的自衛権容認論者の当時の駐フランス大使を後任に充てる人事の強行やその他の政府系組織のトップの官邸主導の人事が挙げられます。なお、K.H氏の定年延長については、検察内部からの反発が強いと、マスコミは報道しています。

 

現政権の新型コロナウイルス対策に関しては、集団感染が起きたクルーズ船の対応については初期対応が遅く、後手に回ったといわれています。ここに来て漸く、首相は「多数の人が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については大規模な感染リスクがある」と指摘、「今後2週間は中止、延期、または規模縮小等の対応を要請する」と強調しています。北海道にあっては、患者クラスターが発生している虞があるとし、これを受けて、道は児童生徒や教職員に感染者が出たかどうかにかかわらず、道内の全公立小中学校を227日(札幌市内の小中学校においては2月28日)から臨時休校するよう各市町村教委に要請するとしています。こうした危機管理が続く中にあって、その一方でK.H検事長の定年延長問題が顕現化しています。政府は、現状においては、本件人事権の行使には抑制的であるとともに、一旦撤回し、新型コロナウイルス対策を優先すべきと思われます。(このテーマおわり)

                                文責(G.K

 

 

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