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租税不服申立の本論からは若干離れますが… その2

2020/04/05

前回は、法人の取締役や従業員等による法人財産の着服・横領等の不法行為に関する司法判断について述べましたが、次にその仕訳と税務処理について述べてみたいと思います。先ず、前回述べた損失確定説の仕訳について触れたいと思います。<法人の損失額が1,000千円だったとします。)

⑴ 損失確定説

(損失被害が発生した事業年度においては何らの処理も行いません。)

200千円を払うことで和解が成立し、損失が確定した場合は以下の仕訳をします。

(借方)現金    200千円 / (貸方)仮払金  1,000千円

 雑損失   800千円 /

 

⑵ 同時両建説

(被害発生事業年度においては、不法行為による損益は計上しません。)

 従業員が返済する資力を持っている場合

 今般のようなケースで、従業員が法人財産(解体廃材等)を無断売却し、その代金1,000千円を着服・横領した事実が発覚した時

 (借方) 雑損失     1,000千円  / (貸方) 仮払金  1,000千円

(借方) 損害賠償請求権 1,000千円  / (貸方) 雑益   1,000千円

従業員に返済する資力がある場合は、上記のように、横領が発覚した時に雑損失1,000千円と雑益1,000千円の、損失と収益の両建てとし、従業員に対する債権を回収していくことになります。

 

⑶ 異時両建説

 従業員が返済する資力を持っていない場合

従業員が着服・横領した金員を既に費消し、返済する資力を喪失し、無資力である場合は、上記の裁判例・裁決例等でみたように、損害賠償請求権が取得当初から実現不能の状態であるところから、損害賠償請求権の収益を認識しないことが許容されます。

 

 従業員が退職等の理由により、100千円のみを支払い、中途で損害賠償金の回収が不可能となった場合には、貸倒損失として損金の額に算入することになります。

(借方)現金   100千円 / (貸方)損害賠償請求権  1,000千円

 貸倒損失  900千円 /

 

法人の取締役や従業員等による法人財産の着服・横領等の不法行為が存在する事例における課税関係について、以下に検討したいと思います。これについては、従業員が不正に受領したリベートの帰属が争われた仙台地裁判決(平成24229日)があります。それによれば、取締役や従業員等の着服・横領等の不法行為により利得を領得している場合の課税関係は、3つに分けて検討が行われています。すなわち、⑴不法行為者が当該法人の事業とは無関係に純然たる私的な行為により利得を獲得したものか否か。利得の原因が法人の事業に基づくものではない場合には、いわば行為者の副業とも位置付けられるものであり、利得は従業員等に帰属するものと判断され、一般に従業員等に所得税が課されることとなり、法人にとって横領等の事実はなく、当該利得は法人とは無関係なものとなり、課税関係は生じないとされています

 

次に、⑵不法行為者が獲得した利得の原因が法人の事業に基づくものと認められる場合、言い換えると客観的に見て不法行為を行った取締役や従業員等の権限の範囲内とみなされる場合、法人にとっては本来得ることができた売上を逸失した、あるいは過大な費用を要したこととなり、横領等による損失が発生するとともに、不法行為者に対する損害賠償請求権が発生することになります。そして、発生した損害賠償請求権が権利として確定したものであれば、これを益金に計上することとなります。そして、⑶重加算税の賦課に関し、横領等の基となった取引等が公表帳簿等に計上されず、申告額が過少となっている場合、課税標準や税額の計算の基礎となるべき事実について「隠ぺい・仮装」が認められれば重加算税が賦課されることとなります。

 

因みに、仙台地裁判決は、「…(略)仕入れに関し授受されていた本件手数料について、原告から法的な受領権限を与えられていたと認めることはでき」ず、「個人としての法的地位」に基づき本件手数料を受け取ったものと認められることから「本件手数料に係る収益は原告に帰属するものとは認められない」と判断しています。そのため、損害賠償請求の可否、隠ぺい・仮装行為の有無についての検討はいずれも行われていません。

 

税務調査において発覚した本件事例を、これまでに述べてきたこと及び上記事例に照らして検討すると、元従業員は、法人が受注した解体工事に伴って発生した建設廃材等を法人に無断で、しかも、授業員自からその取扱業者を探して売却しています。よって、その利得の原因は、法人の事業に基づくものではなく、その利得は当該売却行為者である元従業員個人に帰属するものです。したがって、法人が横領等の不法行為をした事実はなく、当該利得は法人とは無関係であり、課税関係は生じないこととなります。また、本件無断売却により不正利得した法人財産である金員については、既にその全額を費消しており、元従業員にそれを返済する資力はなく、裁判例・裁決例等で述べたように、損害賠償請求権が取得当初から実現不能の状態であるところから、損害賠償請求権の収益を認識しないことが許容される事案と思料されるところです。したがって、本件においての課税関係は発生しないこととなり、法人の租税負担はないとの結論になりました。(このテーマおわり)

文責(G.K

 

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