Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 租税不服申立について(国税不服審判所への審査請求編…その10)

租税不服申立について(国税不服審判所への審査請求編…その10)

2020/07/06

理由附記の不備について述べてみたいと思います。更正の理由附記に関しては、平成23年の国税通則法の改正より、平成2511日から青色申告者に対する更正のみならず、納税者にとって不利益となる処分であれば、すべて「理由の附記」が義務付けられました。これにより、理由附記には「程度」が求められ、その程度を満たさない処分は不適法として取り消されることになっています。これまでこのコラムで取り上げてきたように、筆者の顧問先企業は、旧関与税理士の不手際によって法人税、消費税等の税額に係る更正処分を受けましたが、その処分理由を読んでも、根拠法、計算過程、金額の確定等が不明で、なぜ処分され、どんな根拠法によって処分されたかも分かりませんでした。そこで、処分庁に再調査の請求(平成3〇年1月○○日付)をしたところ、原処分庁は、令和〇年1〇月7日付で当初処分を取消し、同日付で理由附記を追完、差し替え、原処分とした再更正処分を行いました。

 

そして、原処分庁はこのような更正処分の理由附記の不備の追完、差替え行為は許されると主張しています。しかし、仮にそうだとすれば、同じ論理を本件更正処分等に当て嵌めると、仮に、納税義務者に原処分庁が主張、指摘するような誤った会計処理があったとしても、その誤りに対応する税金が納付されれば、その時点で、納税義務が消滅するとともに、その会計処理を誤った責任も消滅することになり、刑事責任も問われないことになりますが、現実は必ずしもそうとは限りません。というのも、原処分庁側は再更正することで自らの当初処分の誤りは白紙となり、「追完」することで理由附記の不備という暇疵も治癒するということになります。そうすると、彼我の間に極めて不平等な取り扱いを招来することになり、それは憲法14条の趣旨、精神を没却することになります。

 

このような再更正の前提として、再更正自体が認められるか、すなわち原処分庁が、理由附記の不備を理由附記に不備のない再更正でやり直すことができるか否か、当初処分に附記した理由を別の理由で書き換えて、再更正でやり直すことが可能か否かの検討が、かつては行われてきましたが、現在では、学説、判例ともに理由附記の追完は認められないとし、繰り返し最高裁も判示しており、したがって、理由附記の追完は認められないことが確定しています。然るに、原処分庁は、法治国家の枢要な立ち位置を構成する租税行政庁でありながら、裁判司法の判断を無視するかのような主張を繰り返しており、これについては、もとより租税正義に反し、順法精神に欠けるものと言わざるを得ません。

 

原処分庁は、理由附記に関して次のようにも述べています。すなわち、請求人(本件各関係法人)の事業実体を検討した結果、本件各関係法人に法人としての事業の実体を有していないと認められるとしていますが、その検討及び判断をする前提となる事実を誤って認識(偽りその他不正の行為に向けられた、先に結論ありきの認定)しているところから、誤った判断、結論が導かれ、その結果、法律の解釈・適用も誤ったものと思われます。よって、請求人は、「本件各関係法人に法人としての事業の実体を有していないと認められるとの原処分庁の主張は誤りであり、法人税法第22条各項により当該取引を否定される理由はなく、当該処分の根拠となる法令が記載されていない」との主張をしました。

 

これに対し、原処分庁は、答弁書において「実質的な費用収益等の帰属主体について」と題して、法人税法11条の規定を費用収益の帰属認定の根拠とし、「本件関係法人には、事業実体がないものと認められることから、請求人の各事業年度における所得金額を法人税法第22の規定に基づき、計算を行ったものであり、原処分に係る通知書に、根拠となる法令等は記載されているから、理由附記不備には該当しない。」と答弁しました。このように「等」の一文字が法人税法第11条も包含するので理由附記は十分と原処分庁が判断しているのであれば、平成23年の国税通則法改正前の旧態依然の考え方に基づくものであり、適正であるべき税務執行官庁として極めて不適切な状態であることはもとより、答弁書において原処分の理由附記の不備に気づき、それを補完しようとした意図が強く窺えますが、しかし、それをもって原処分の瑕疵を治癒できるものではありません。

 

また、原処分庁は、平成2〇年3月期課税期間の消費税等の加算税賦課決定処分について、請求人が原処分の理由附記に、「請求人らが、本件各関係法人が法人としての事業の実体を有していないと申述したことも、本件各関係法人に請求人宛ての請求書を作成させ外注費を支払ったかのように仮装したと申述したこともなく、申述もしていないことを処分理由に記載した違法な処分である。」と主張したことに対し、「原処分庁は、請求人らの申述内容として、本件各関係法人が法人としての事業の実体を有していないこと及び本件各関係法人に請求人宛ての請求書を作成させ外注費を支払ったかのように仮装した旨申述したことを記載したものではなく、請求人らの申述内容を判断した場合に、通則法第68条に規定する「仮装」に該当する旨記載したものであり、請求人らが申述していないことを原処分庁が記載したものではない。」とのいい訳としか思われないような答弁をしています。

 

しかしながら、平成2〇年3月期課税期間の消費税等の加算税賦課決定処分の「処分の理由」の(関係法人に対する外注費に関する部分)の記載は次のとおりである。

「関係法人は法人としての実体がないにもかかわらず、法人として稼働しているようにみせかけていたと認められ、当該外注費は、貴法人(請求人)の前代表取締役で現取締役会長であるA氏、請求人の専務取締役であるC氏及び請求人の元関与税理士であるI税理士の申述によると、関係法人は法人としての実体を有しておらず、関係法人が行ったとする作業は、実際には請求人に帰属する従業員が行った請求人の作業であるにもかかわらず、HS社に請求人宛の請求書を作成させることにより、請求人が外注費を支払ったかのように仮装することで、当該課税期間に係る課税仕入れに係る支払対価の額に含めていたものと認められます。」と記載しており、申述者3名を並列に扱い記載しているこの文章の解釈として申述者3名が同様の申述をしたかのような記載になっているのが明らかです。また、仮に、I税理士の申述を参考に判断したのであれば、申述していないA氏及びC氏の氏名をここに記載したことは、虚偽の理由附記をした違法な処分ということになります。(つづく)

                                文責(G.K

 

金山会計事務所 ページの先頭へ