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国税不服審判所の役割とその存在意義 その20

2021/10/15

それは、何処か既視感のある原処分庁による明らかな「不都合な事実」の隠蔽でした。そこで、請求人は、已む無く札幌国税局調査査察部が押収して検察庁への告発時に証拠資料等として提出した膨大な量の書類の中から、当該部分を特定し、検察庁に証拠等資料の開示請求をしました。この余分とも言える手順、手続きを経て、漸く、本件給与手当の過大計上額とされ、所得に算入された額の全容解明に繋がりました。その内容と金額が、上にも触れた、札幌国税局調査査察部査察第3部門総括主査YM氏及び主査AK氏らの指導に従って、当時の請求人の代表取締役に対する認定給与とされる虞があると指摘され、S関係法人(後に請求人に属するとされた)の決算期の中で、A氏、C氏らの個人の金員から強制的に出捐、清算させられていた以下を内訳とする金額です。

 

給与手当の過大計上としての認定額は、平成265231,600,000円、同年6251,589,670円(審判所認定額1,488,620円)、同年7251,523,830円、同年8251,500,000円、同年9251,500,000円、同年10241,500,000円、同年11254,038,899円、同年12253,000,000円、平成271233,000,000円、同年2258,817,070円、同年3253,000,000円及び同年3314,466,813円であり、合計35,536,282円(審判所認定額35,435,232円)であるところ、審判所の当該認定額は、それ自体についても、そしてその算出方法についても真実性に重大な疑問があるものです。

 

と言うのも、原処分の更正の理由には、「別表3の差額の合計35,536,282は、S関係法人の総勘定元帳に計上している金額の合計204,000,924円と同法人の給与明細一覧表の支給額の合計168,464,642円との差額であり、当該金額は、A氏及びC氏の申述より(中略)。したがって、法人税法第22条第3項の規定により…」と記載されています。

しかし、原処分庁の答弁書においては、I税理士の申述を引用しつつも、「本件架空給与の額について再計算を行った」として、表3-3で原処分庁が主張する本件架空給与の額を示しています。表3-3では「給与手当勘定」として合計金額213,382,412円、「給与明細集計額」として合計金額177,846,130円を示し、別表3と同額の「差額」を示していますが、原処分の別表3で示した「給与明細一覧表の支給額」と答弁書表3-3の「給与明細集計額」の内訳は異なっており、何をもって「本件架空給与の額について再計算を行った」のか理解不能な答弁内容となっています。

 

請求人は、「給与手当の過大計上」に関する計算過程が不明であることを、審査請求書(副本)においても述べ、その回答を求めたにも拘わらず、原処分庁のこのような対応をそのまま受け容れている審判所は、納税者の正当な権利利益の救済を目的とした審査請求制度を根底から覆し、蔑ろにした極めて不当な対応(認定)と言えます。請求人は、原処分庁が関係者の申述をどのように評価し、何をもって「本件架空給与の額について再計算を行った」のか、その認定方法と具体的算定根拠を示すよう、審判所を経由して改めて求めましたが、原処分庁、審判所のいずれからも何らの回答はありません。いずれにしても、算定根拠が明らかでない更正処分は、違法と評価されるところです。

 

そこで、原処分に先立つ税務調査に関して、請求人の代理人の一人である(H税理士)は、平成252月の税務調査の給与手当の過大計上額等に関する情報収集のため、平成313月に原処分庁に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)第4条第1項に基づき開示請求(原処分庁収受平成31327日札局札幌南公開2018-3)をしました。しかし、平成31424日付札南総総第71号「行政文書不開示決定通知書」により、情報公開法第5条第2号イの不開示情報を開示することになるため同法8条の規定に基づき、当該文書の存知を明らかにしないまま、本件開示請求を拒否する旨の通知が送達されました。原処分庁が上記調査の存在、調査における担当者の発言及び手持資料の存在等を否定することから、証拠として事前準備資料を含む調査書綴り全体の提示を求めましたが、それらについても、一切の提示要求を拒否、何らの情報をも開示せず、ひたすら隠蔽するのみでした。

 

また、原処分庁は、いつの間にやら「本件給与手当の過大計上額」とタームを変更しているのに対し、審判所は、相変わらず「裏金」、「架空の給与手当」と誤った後ろ暗いイメージの表現(認定)を続けています。しかし、その実態は、「販促費の性格を有する貸付金」であったこと及び当該貸付金を元請の現場責任者に実際に手渡し、貸し出した当事者であるA氏は、手渡した金員は50万円を単位とする金額で、端数のある金額ではなく、しかも総額は1,500万円から多くても2,000万円の範囲であったと当局の調べに申述し、そして、後の請求人の代理人の聞き取りにもそのとおり証言しているのです。

 

これにつき、請求人は、審判所への令和2727日付「審査請求人の意見書」において、本件の内容及び具体的金額等についての原処分庁の認定は誤りであることを、明確に指摘、主張していたことから、審判所は当然に本件「販促費の性格を有する貸付金」につき、了解し、把握していると思われました。しかし、KT審判官は、それどころか、令和21141520分頃審判所において、これまでに請求人が時間と労力をかけて書き上げた、審査請求書、反論書及び10通を超える累度にわたる原処分庁の意見書に対する請求人の意見書、証拠説明書並びに確認表等の請求人提出資料等についてさえも、「請求人提出資料等には目を通していない」、本件に関して、「改めて調査は行わない」旨を明らかにし、剰え、本来、存在すらしない給与手当の過大計上額を認定した原処分庁の虚偽の事実認定を、そのまま、審判所の認定事実としており、正に国税不服審判所の存在意義が問われる事態となっています。

 

審判所は、当該「販促費の性格を有する貸付金」につき、当然、調査を行い、元請事業者の現場担当者に直接手渡した当事者であるA氏の申述に基づき、同人が手渡した都度毎の金額を特定し、その額を積み上げるべきところ、原処分庁(札幌国税局)に忖度したのか、原処分庁の主張に沿って推計、算出した金額約3,550万円を認定しており、A氏が手渡した額を2,000万円としても、彼我の間には大きな開差が存在します。これにつき、何らの疑問を抱かず、唯々諾々と原処分庁の主張をそのまま、自らの認定事実としている審判所の姿勢に、租税法に携わる者として、大いなる失望と落胆をするものです。

 

また、単なる当該金員の呼称や金額の問題には止まらず、更なる重大な問題として、本件「販促費の性格を有する貸付金」は、その後、札幌南税務署の税務調査を経て札幌国税局調査査察部に引き継がれ、前述した査察第3部門の総括主査YM氏、同主査AK氏らによる行政指導として、A氏に対する請求人からのみなし給与の支給に当たる可能性が強いとの(脅迫にも似た)警告と同時に速やかにS関係法人宛てに35,536,282円を返還すべき旨の要求を受けて、A氏は強制的に振込入金させられています。

 

それにも拘らず、原処分庁は、再度、同額を請求人による「架空給与」の支給であるとして立件し、更正処分を行い、しかも青色取消事由とし、重加算税の対象にもしているのです。これは、既に行政指導によって誤りとされた部分(実際には法人の損益に関係せず、必ずしも誤りではない)の訂正、修正が完了しており、明らかに納税義務のないところに、更正処分を行い再度強制的な徴収を行った、前代未聞の国家の許されざる(詐欺的)行為とも評価されるものです。更に許せないのは、審判所がこの情況を知りながら、頬かむりしていることです。加えて、これ(国税の二重賦課、二重納付の強制)から派生した以下に述べるような更なる重大な問題をも惹起しています。

 

上記、国税の二重賦課、二重払いの強制に関しては、税務署に届けて当局の手でこれを是正して貰うのが、一般的と考えられるところから、請求人は、札幌南税務署(原処分庁)を訪れ、本件更正処分のうち、本件過大給与額及び明らかに原処分庁が誤ったと思われる処理に対して、「職権による減額更正」を申し出ました。しかし、同署のMT審理担当官は、それはできないの一点張りだったところから、「処分をしたのはそちらの方なので、そちらの処分時の資料に基づいて減額更正をして下さい」と猶もその処理方をお願いし、当日は、当該申し出に係る書類を税務署に置いてきました。

 

後日、原処分庁にMT審理担当官を訪れ、改めて「職権による減額更正」を申し入れましたが、やはり難しいとの回答の後、同人から「そちらから『更正の請求』を出してください」と伝えられました。そこで、請求人(代理人)は、再度、「処分をしたのはそちらの方なので、その時の資料に基づいて更正するのが一番処理しやすいと思いますが、どうしてそれができないのですか」と問い質したところ、MT審理担当官は、「すべての調査、処理は札幌国税局の査察の方でやっており、当方は本件更正処分についての事情についてよく分からないし、当該処分関係の資料が一切ないので、そちら(納税者)の方から『更正の請求』をしてくれませんか」と改めて回答されました。(つづく)

文責(G.K

 

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